蒼の王様、紅の盗賊
........まだ、ほんの子供じゃないか。
俺は改めて見る彼女に、素直にそう思った。
俺もこの時はまだそんなに歳がいっているわけでも無かった。
せいぜい二十歳かそこら、歳なんて数えたことは無かったので正確には分からなかったがそのくらいだった。
なのにそんな俺から見ても、彼女は随分と若い。
彼女は明らかに子供。
端から見れば歳の離れた兄妹か、下手をすれば親子にだって見えてしまうかもしれないくらいだ。
本当ならばきっと、遊びたい盛りだろう。親に甘えたい盛りだろう。
まぁ、俺はそんな生温い環境には居なかったからそんな経験はしたことが無かったが。
...........俺はそんな彼女から、全てを奪い去ってしまった訳か。
何の理由も無く、ただ己の汚れた欲望を満たすだけのために。
何の罪も無いはずのこの小さな彼女から、全てを奪ってしまった訳か。
小さく唸り眠る彼女を見て湧き上がるのは、そんな感情。
今までなら微塵も抱くはずも無かった罪悪感という、真っ当な人としての感情がこの時俺の中に沸々と込み上げていた。
自分でも信じられなかったが、俺は不思議とその感情を受け入れた。
「.........」
きっと、きっとこのまま彼女を放って置けば彼女は死ぬ。
怪我をしているからとかそういう問題ではなくて、もし回復したとしても彼女は死ぬだろう。
こんな小さな子供が一人で生きていける程、世界は甘くない。
ましてやこの子は、つい数時間前までは一国の姫だった。
何の不自由も無く生きてきたに違いない。
だが今の彼女には身よりも権力も肩書きも地位も、もう何も無い。
俺が全てをこの手で奪ってしまったのだから。
........つい数時間前までは俺と彼女は全くの接点も無い赤の他人。
今はこうして同じ空間に居るがまだ他人であることには変わりはない。
だったら何を迷うことがある。
面倒事は御免だ。
このまま彼女が寝ている間に立ち去って、そのまま捨て置けばいい。
他人なのだ。
別に彼女が死んだところで俺には何も問題なんて無い。
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