蒼の王様、紅の盗賊
彼女が回復して判ったことが幾つか在る。
それは彼女の性格。
彼女はその歳にしては実にお節介で口煩い。
決して貴族や王族の傲慢さから来るものではなく、何というかまるで母親のようなお節介だ。
「それに私は"お前"って名前じゃないわ。
覚えていないの、私の名前?」
「........煩いな」
「煩くなんか無いわ?
大切なことよ、人の名前を覚えるのは!
これからの世の中はね、ちゃんと礼儀というものがね――――」
........。
そうなのだ。
彼女は、とてつもなくお節介なのである。
俺が想像していたものとは全く違う会話がこうして繰り広げられている現実。
正直俺は彼女の勢いにうんざりしつつも戸惑い、そしてまた何処か安堵していた。
「聞いているの?
人の話はちゃんと――――」
「.........アスラ」
「っ!」
あんまり煩いので名前を呼ぶ。
普段殆ど"お前"で済ましてしまうためにあまり呼んだことは無かったが、勿論忘れている訳でも無い。
.......。
ただ誰かを名前で呼ぶのは、しかもこの少女を親しげに名前で呼ぶにはどうも気が引けたというだけだ。
「ありがとう!
嬉しい、ちゃんと覚えていてくれたのね!」
ただ名前を呼んだだけ。
ただそれだけなのにとても喜んだ。
ありがとう。
そんな感謝の言葉が返って来るだなんて想像もしていなかった。
俺は思わず面を食らった。
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