蒼の王様、紅の盗賊








「俺はお前を捨て置かない。
だがお前を育てるようなそんな真似は出来ないしする気も無い。

俺にはもう真っ当な道を生きていく選択肢は無い。もうそんな道へは戻れない。
歩めるのは陽の当たらない暗い裏の道。

........お前にはその覚悟があるか?
その道を歩んでいく覚悟が」



「あるわ」



彼女は即答した。
それも生返事などではない。
意志の込められた声だった。

.........。
そして一拍後、続けられる彼女の言葉。




「決めたわ。
私、貴女に負けないくらいの立派な盗賊になる」



ほんの数ヶ月前までは一国の姫だった。
穏やかで明るく温かな場所で大切に育てられてきた。
俺なんかとは全く正反対の場所で彼女は生きてきた。

そのはずなのに。





「お前、自分で何を言っているのか判っていないだろう?」



「あら、ちゃんと判っているわ?
.........私は盗賊になるの。
でも悪い盗賊にではないわ、私はね良い盗賊になるの」



「良い....盗賊。
そんなものはない。
盗賊は....悪。それがこの世界の鉄則だ」



「無いなら作れば良いわ?
私が、いいえ私達が良い盗賊の"初めて"になるの」




言い返せなかった。

そうか、なればいいのか。
決して簡単なことではないはずなのに彼女の言葉に納得していた。



良い盗賊。
それは俗に言う"義賊"というやつか。

だがそんなもの口では何とでも言える。
事実、本当に正義の意志のみで動く義賊など見たことはないし恐らく今のこの世界にそんなもの居ない。

人という生き物は欲望の塊だ。
所詮他人よりも自分が大切な訳で他人の為だけに欲望を全て抑えることなんて不可能だ。
何処かで欲望が抑えられなくなり正義という名の建前は呆気なく崩壊する。






「........」



だが不思議と彼女を見ていると、正真正銘本当の良い盗賊というものになれる気がした。
あるはずのないそんなものの存在を疑わずに信じられた。

彼女なら、このアスラという子ならば。
.......。
この子と共にならこの腐りきった自分の人生を変えられる気がした。






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