蒼の王様、紅の盗賊
~2~









"奴等はきっと、いや絶対にあの事件に関わっております"


........。



"決断を下すのは、貴方です"








「私は―――俺はどうしたら......」



訪問者が去った。
静まり返る部屋の中で一人きりになった。


.......。
谺するの信頼を置く臣下が落とした言葉。
もう彼は去ったこの部屋で彼の、レストの言葉が何時までも虚空を漂う。




その言葉に甦るのは鮮やかな紅。
彼女―――そう紅の盗賊。
盗賊という名の悪人の姿。


........。
悪は嫌いなはずだ。
嫌いで憎くてこの世界から滅してしまいたい。
そんな存在であるはずだった。

だが甦る彼女の姿に沸き上がるのは本来抱くべきはずの憎しみではなく何処か違った感情。







「あの女が父上と母上を殺した盗賊の仲間.....?
世界に名の知れた極悪非道の盗賊団の一員?」




彼女のことを良く知っている訳ではない。
会ったのはあの時きりで彼女がどんな人間であるかなど判らない。


レストから聞かされ報されたことを否定する理由は無い。疑う理由も無い。
......。
そうであるのに心に浮かぶのは疑問符ばかり。









あの紅の瞳に宿る光を見た時、そこに感じるのは悪意ではなかった。

感じたもの。
悪意ではなく寧ろ正義に近い強い意志の煌めき。



紅の盗賊は―――彼女は地下牢に捕らえられ鉄格子越しにこちらを見た。
普通なら抱くはずの怯えの色は微塵も見せず毅然とした態度でこちらを睨んだ。

立場は圧倒的に劣るはずなのに対等に思わせた。
下手をすれば彼女の方が上とさえ思った。




鉄格子を隔てた冷たい牢屋の中で彼女は言った。








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