蒼の王様、紅の盗賊
「あんたには───分からないさ .....世界を知らない可哀想な王様」
世界を知らない可哀想な王様。
侮辱とも取れるような言葉。
何も知らないだって?
可哀想だって?
この私が―――この俺が。
.........冗談じゃない。
自分は立派な一国の王であり、相手は下等で薄汚れた盗賊である。
そんな奴に哀れに思われる筋合いは無い。
だがあの時に咄嗟に浮かんだ感情はそんな憤りではなくて動揺。
自分は哀れなどでは無い。
自分は、自分は己の掲げた正義を貫き生きる誇り高い立派な人間だ。
そう言いたかった。
自信を持って言えるはずだったのに。
「..........」
言えなかった。
言葉が出てこなかった。
それどころか彼女の真っ直ぐこちらを向く紅の瞳に本当の自分を―――自分でさえ気付いていない自分を見透かされた気がして心が焦った。
........。
彼女の言葉に心が納得していた。
勿論、自分がやっていることが間違いだとは思わない。
悪は憎むべきものであるし、排除すべきものである。
正しく生きる者達を餌にして生きる悪党共に同情する気は毛頭無いし、それを見て見ぬふりをして奴等を許そうとは思わない。
どんなに小さな悪でも見逃しはしなかった。
悪という悪は徹底的に滅した。
悪は許さないと決めた。
どんな悪でも、それを犯す者が誰であっても許さないと決めた。
全ては正義を貫くために。
この手で民を、何の罪も無い者逹を守るために。
だが罪人に手を下す時に時々思うのだ。
泣き叫び許しを乞う罪人。
勿論本物の真から悪に染まった者であるなら何も思うことはないが、罪人達が皆そうではない。
か細く怯えきった女。
年端もいかない子供。
痩せ細り足取りも覚束無い老人。
皆が皆、自ら望んで罪を犯したのではないのではないか?
悪に染まりたくて染まった訳ではないのではないか?
今自分が手を下そうとしているこの人達は、本当に悪なのだろうか?
そう思ってしまう。
勿論罪人となった者逹は大小あれど罪を犯して其処に居る。
裁かれるべきして其処に居る。
だがそれだけで彼等が絶対的に悪であると決め付け手を下すのは、果たして本当の正義であるのか?
自分は―――本当に正しいのか?
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