蒼の王様、紅の盗賊







迷いがあった。


でも手を下すのを止めなかった。
止められなかった。

迷いと共に過るあの惨劇の夜の記憶。
何処までも深く濃い闇色の記憶。
身体の底から沸き上がる憎しみに迷いは打ち消され己を止められない。





民のため。
世界のため。

いや、違う。
本当は全て自らの憎しみの感情に駆られての事だった。









「可哀想、か」



盗賊である彼女にまで哀れまれる自分は奇しくも一国の王。

自分の方が絶対的に正しいはずで、またそうあるべきだ。
盗賊と王様。
世界における存在の価値には雲泥の差があるはずで、またそうあるべきだ。






.........。




「俺は―――俺はあの女にもう一度会わなければならない」





自然と口から言葉が零れる。


会わなければ。

それは使命感。
もう一度彼女に、紅の盗賊に会って彼女と自分の間にあるはずの差を―――あの時には感じることの出来なかったその格差を感じなければ。
自分の正義は間違ってはいないと、自分が絶対的に正しいと証明しなければ。






「もう一度会えば、何かが判る気がする。
本当のことが.......俺の知らないことが判る、そんな気がする」







決断を下すのは貴方です。

レストの言葉が谺する。
そう。
決断を下すのはこの国の王たる自分。
この国をこの民を導くのは自分しか居ない。


自分にはその義務と責任がある。
今までだってそれは果たしてきたつもりだが、何処かで真正面から向き合うことを避けてきた。

この玉座に座って決断を下しこの国を動かしてきた。
目を通すのは膨大な書類とごく一部の城の者達だけ。
あの紅の盗賊の処刑のその時までは民と面と向かうことは無かった。



このままではいけない。

そう思っていた。
だが過去の柵に囚われてそこから抜け出す機を失っていた。
そのタイミングが見出せずに居た。







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