蒼の王様、紅の盗賊
 
 
 
 
 
 
(私じゃ....ないのか?)




アスラは不思議に思い、自分の周りから消えた人の気配を追う。


向いたその先には、人集り。




かなり....かなりの大事だ。



これほどの大騒ぎになれば、この国の悪を討伐する自警団が黙ってはいない。

すぐに駆け付け、容疑者は捕まり幽閉....そして死罪となる。






(.....此処に居ては、危ないな)




そう。

自警団が駆け付ければ、盗賊であるアスラの身も当然危なくなる。




そう危機を察したアスラは、軽く唇を噛み締め

人集りに静かに背を向けた。





(......)



残酷かもしれないが、今はこれしかない。



ここで下手に手を出して、自分が捕まるなんてことがあったら....

そう思うと、どうしても身体が人込みから背を向けた。




もし、自分が捕まったら残されたジルたちは....子供たちはどうなる?


────想像が出来る。
飢えに苦しみ....生きることさえ苦痛になり、皆から笑顔が消える。

心から、笑えなくなる。





.....それだけは駄目だ。

それは....在っちゃいけない。




笑顔を忘れたら、世界から色がなくなる。

そんな世界に、ジルや子供たちを放り込みたくはなかった。






アスラは人集りに背を向けたまま

そのままその場から遠ざかろうと、足を前に踏み出した。





 
< 52 / 317 >

この作品をシェア

pagetop