蒼の王様、紅の盗賊
(私じゃ....ないのか?)
アスラは不思議に思い、自分の周りから消えた人の気配を追う。
向いたその先には、人集り。
かなり....かなりの大事だ。
これほどの大騒ぎになれば、この国の悪を討伐する自警団が黙ってはいない。
すぐに駆け付け、容疑者は捕まり幽閉....そして死罪となる。
(.....此処に居ては、危ないな)
そう。
自警団が駆け付ければ、盗賊であるアスラの身も当然危なくなる。
そう危機を察したアスラは、軽く唇を噛み締め
人集りに静かに背を向けた。
(......)
残酷かもしれないが、今はこれしかない。
ここで下手に手を出して、自分が捕まるなんてことがあったら....
そう思うと、どうしても身体が人込みから背を向けた。
もし、自分が捕まったら残されたジルたちは....子供たちはどうなる?
────想像が出来る。
飢えに苦しみ....生きることさえ苦痛になり、皆から笑顔が消える。
心から、笑えなくなる。
.....それだけは駄目だ。
それは....在っちゃいけない。
笑顔を忘れたら、世界から色がなくなる。
そんな世界に、ジルや子供たちを放り込みたくはなかった。
アスラは人集りに背を向けたまま
そのままその場から遠ざかろうと、足を前に踏み出した。