蒼の王様、紅の盗賊
〜5〜




城下の街中で、そんな騒ぎが起こっている頃

騒ぎの影すら見えない、この穏やかすぎる城の中で


この城の主であるシュリは、穏やかな時に浸っていた。





部屋の中にはシュリ一人。
他に人の影はない。


まるで此処だけ時がゆっくり進んでいるようで
身体に感じる全ての感覚が、じんわりと染み渡る。





「────ふぅ」



そんな時の中で、シュリは窓辺で一人外を眺めて頬杖をついていた。

視線の先にあるのは、揺れる木々の緑と街。



.....ここからこうして景色を眺めて時を過ごす。

これがシュリの毎日の日課になっていた。








「───俺も昔は....よくあの街に行っていたな」



いつもと変わらぬ窓辺からの景色。

その景色をボーッと眺めて、シュリは誰に言うでもなく呟いた。



そしてまた、暫く景色に目をやると自然とこんな言葉が零れる。






「......懐かしいな」



懐かしい。
ふと、過ったそんな感覚にシュリは自分で驚いた。






あの日。
シュリが、大切なモノを失って....心から笑えなくなった日。


あの日から、シュリは城から出ることを頑なに拒むようになった。

この城から出ることが....あの日を境に、怖くなった。



今まで見ることなんてなかった現実を....哀しい現実を
シュリは見てしまったから。





 
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