蒼の王様、紅の盗賊
シュリは、人を傷付けるのを嫌う青年だ。
誰よりも、民の平和を願う青年だ。
だが、悪を前にした時だけは。
「───悪は、消す」
その時だけは、残酷な血も涙もない青年になる。
彼の深いの傷。消えない憎しみが、シュリを豹変させるのだ。
豹変したシュリは、誰にも止められはしない。
例え、罪を犯した者が泣いて命乞いをしても
反省し、心を入れ替える兆しが見えても、シュリは....許しはしなかった。
白い絵の具に少しの黒を落としただけで、くすんだ灰色となってしまうように
人の心も同じ。
一度、悪という黒に染まれば、もう真っ白には戻れない。
そうシュリは思っていた。
───カツッ....カツンッ。
階段を下り、いくつかある内の一番奥にある牢の前。
シュリは、そこで足を止める。
(.....こいつか)
足を止めて、前を見る。
シュリの目の前の鉄格子の向こうには、一人の人の姿。
そこには紅い髪の....女が居た。
(女の盗賊か....珍しいな)
シュリは、そう思った。
この国で罪を犯す者と言ったら、大抵は男の場合がほとんどだ。
女の場合、罪を犯すよりも夜の街に繰り出して自分を売る。その方が確実に金が入るからだ。
だから、滅多に女が此処に....牢に入ることなどなかった。
少なくとも、シュリが王となってからは初めてだった。
(───この女が....紅の盗賊なのか?)
シュリは、鉄格子の先で静かに目を閉じて動かない彼女を改めて凝視した。