蒼の王様、紅の盗賊
盗賊。
ジルの口から零れた言葉は、アスラのことを指す言葉。
盗賊。
つまり物を盗む者。
もちろん見付かり捕まってしまえば、罪に問われる。
しかも今のこの国で盗賊なんて見付かろうものなら、死刑は免れないことは明白だ。
この国の今の王は、どんな小さな悪をも許さない。
飢えた子供が、林檎一つ盗む。
ただ、それだけのことさえ許されないのだ。
そんな危険な環境の中アスラは、自らの命を削り盗賊をしているのである。
「だが、止めろとは言えないのが.....我々の現実。
アスラの命を削ったその仕事で、我々は生かされているのだから」
見付かれば、命を失う危険な仕事。
止めなければ。
そう頭では思うジルだが、実際問題.....無理だった。
「我々に....生きて行く力があればな」
ジルは皺だらけの顔にまた一つ皺を増やして、悔しそうに呟く。
ジルたち.....つまりこの地にポツリと建つこの廃墟に身を寄せる者たちは、理由は様々だが皆この世間から隔離された者たち。
雇い先もない。
お金もない。
そして食べ物もない。
でもだからと言って、アスラのように街へと盗みへ出るようなそんな勇気も、体力も彼等にはなかった。