【完】『大器晩成』
当たり前ながら。
「あの桜岡先生って人、えらい変わってはるわぁ」
などとママやチーフなども言うのだが、正直なところあんまり歓迎される質の客ではなかったらしい。
というのも。
「もうちょい利益の出る飲み方してくれたらええんやけど」
というのである。
安酒でも、とにかくボトルを回転させることがこの種の店の要であるのに、烏龍茶では回転もヘッタクレもないのである。
そのため。
「マリエちゃん、あんたがとっぷり飲まさなあかんねんで」
などとすすめさせようとするのだが、そうなると麟太郎は気配を察してか知らずか、
「今度、凱旋の個展が向こうであってね」
などと理由をつけ、しばらく来なくなる。
来ないより来た方が稼ぎになるので繋ぎ止めているが、
「めんどうな客やで」
というのが、偽らざる本音であったようである。