【完】『大器晩成』
それでも。
マリエこと眞姫は、悪意のない、裏返せば計算のない麟太郎の言動に、何とも言えない憎めないものを感じていたらしく、
「まぁいいやないですか、枯れ木も山の賑わいいいますやんか」
と、かばっているのだかいないのだか分からないような言い回しで、しかし邪険とも感じずに答えた。
「えらいガタイのえぇ枯れ木やな」
などとママは不満あり気であったらしい。
が。
稼ぎ頭のマリエの機嫌を、変に損ねるのもどうかと思ったのか、
「ま、好きにしいや」
と言い、最後は折れるのであった。
個展が終わると、麟太郎が陶芸の仲間を連れて、マリエの店へ来ることもあって、そうやってお金を落とすことはママもありがたかったらしい。
──まぁ、夜の蝶などというのは、金という蜜に群がる生物だからね。
と他日ひとに語っている。
そうした醒めた眼を、おくびにすら出さないまでも、麟太郎は持っていたようであった。