【完】『大器晩成』
◇4◇
眞姫がミナミの店を辞めて東京へ移ったのは、例のグラビアの仕事を初めてから一年半ほど過ぎた頃であった。
それまで。
東京に出たことがなかった眞姫は、最初は勝手が分からなかったらしい。
「うちなんかマンションの周りしか分からへん」
初めてついたマネージャーが仕事の送り迎えをしてくれるので、そこは困らない。
居場所も、住所から川崎であることは、頭で分かっている。
しかしながら。
位置関係が分からず、どの電車に乗ればどこへ行けるのか、はじめの一ヶ月ほどは見当すらつかなかったようで、
「反対側の電車乗って遅刻しかかった」
ということもあった。