【完】『大器晩成』
中学に入ったばかりの頃、
「もう少し出来が良ければなんとかなったんやが」
そういうと、眞姫が選んで買った赤い縁の眼鏡が気に入らないと言って、母親に命じ眞姫が授業で家を出ている間に、眼鏡屋に換えに走らせたことがあった。
当然ながら。
眞姫が帰ってくると、赤い眼鏡がない。
すぐさま眞姫は住まってたアパートから百メートルもない雑貨屋の店先のピンク電話から百十番をかけ、
「眼鏡が盗まれた」
と警官を呼んだ。
交番から警官がやって来て調べ回ると、たちまち父親が勝手に換えさせたのが露見したが、
「未成年やし諦めぇ」
と警官に言われるのが話のサゲで、眞姫はその夜かぶった布団の中で声を殺して哭(な)いた。
果たして。
裕福でなかったから高校には行かせてもらえず、中学を出ると大正の平尾で店をやっていた叔母のもとへと、眞姫は働きに出たのである。