【完】『大器晩成』
麟太郎の窯場は小高い開けた角地にある。
階段を上り切った踊り場から眞姫が振り返ると、樫や椿の繁った樹の間の先に、キラキラと波を輝かせる横須賀湾が遥かに見えた。
ロケの内容は、
「海外で注目される日本人」
という特集で、麟太郎が海外で名を知られていることを、眞姫はこのロケで初めて聞いたのである。
製作していたのは、全体に精緻な彫刻が施された皿や碗、さらには盆栽の樹鉢であるが、
「よく外国人が買って行くのは樹鉢ですね」
と言った。
目を凝らすと。
蕎麦猪口ぐらいの小さな鉢に、翼を広げた姿も鮮やかな鳳凰が、棚引く霞のなかを舞う様子が細やかに彫られてある。
「海外の方の反応は?」
と眞姫は訊いた。
「これが、面白いことに」
と麟太郎は棚に飾られた鉢を二つばかり手に取って、語り始めた。