【完】『大器晩成』
まずはこれ、と麟太郎が指さしたのは淡い紫の鉢で、これには蝶が彫られてある。
「これは肉が薄いんで、よく日本人が買って行くんです」
次に、と手にしたのは淡い緑の鉢である。
「こっちは肉厚なのですが、これは不思議なことにアメリカやイギリスのお客さんが買って行きます」
国によって買う鉢の厚みが違うというのである。
「日本人は肉の薄い、すなわち軽い鉢を好んで買うんですが、アメリカ人やイギリス人は肉が薄いと割れるのではないかと、肉厚の鉢を買うんです」
どうやら。
麟太郎は買う人の国それぞれに合った作品を製陶し、それがどうやらヒットしたようであった。
「しかも横浜も近いし、横須賀には米軍がある」
つまり。
地の利もある、と言う。
ただ単に大阪を捨てた訳ではなさそうであった。