【完】『大器晩成』
ほどなくして。
眞姫はマンションを引き払い、窯場の近くに小さな部屋を借りて通いで修業する…という毎日が始まった。
教え方は独特で、
「手の使い方はこうで」
と最初だけ指導し、あとは眞姫に任せる。
土の練り方、轆轤の使い方、シッピキや弓での切り方など、すべて教えたのは最初だけである。
「陶芸は場数で、体で身に付けるしかないから教えようがない」
という由で、眞姫が器用な性質だと分かると、
「じゃあ次はこれをやってみようか」
と様々教え込んでゆく。
あとは放置に近い。
失敗しても眞姫は自分で原因を見つけ、改善して行かなければならない。
自己を見つめるような作業に、
「そうやったか…」
厳しいとはこういうことか、とあとから気がついたのである。
眞姫が初めて大皿を作ったときも麟太郎は、
「大きな器は乾くにしても焼くにしても、冷ますにしても時間がかかる」
大器は晩(おそ)く成ると書いて大器晩成という…というようなことを言った。
「だが時間だけかければ良い訳ではない」
良い器は良い姿勢と良い技術で出来る、といい、そこは喧しかったがあとは自由にやらせた。