【完】『大器晩成』

ほどなくして。

眞姫はマンションを引き払い、窯場の近くに小さな部屋を借りて通いで修業する…という毎日が始まった。

教え方は独特で、

「手の使い方はこうで」

と最初だけ指導し、あとは眞姫に任せる。

土の練り方、轆轤の使い方、シッピキや弓での切り方など、すべて教えたのは最初だけである。

「陶芸は場数で、体で身に付けるしかないから教えようがない」

という由で、眞姫が器用な性質だと分かると、

「じゃあ次はこれをやってみようか」

と様々教え込んでゆく。

あとは放置に近い。

失敗しても眞姫は自分で原因を見つけ、改善して行かなければならない。

自己を見つめるような作業に、

「そうやったか…」

厳しいとはこういうことか、とあとから気がついたのである。

眞姫が初めて大皿を作ったときも麟太郎は、

「大きな器は乾くにしても焼くにしても、冷ますにしても時間がかかる」

大器は晩(おそ)く成ると書いて大器晩成という…というようなことを言った。

「だが時間だけかければ良い訳ではない」

良い器は良い姿勢と良い技術で出来る、といい、そこは喧しかったがあとは自由にやらせた。

< 35 / 52 >

この作品をシェア

pagetop