【完】『大器晩成』
◇10◇
斯くして。
眞姫はいっぱしの陶芸家として、鶴見の道念稲荷のそばの、もとは鶴見市場に近い定食屋であったという空き物件に、居抜きで小さな電気窯を据え、小ぶりながら窯場を開いた。
開いたばかりは地味な茶碗や皿を焼いていたが、生麦の魚屋の大将から、
「薄造りに映える柄の皿が欲しい」
と言われたので、鳳凰の彫刻を施した銅青磁の皿を試作で持って行ってみたところ、
「お姉ちゃん見た目は美人なのに、なかなか男前な皿をこさえるね」
と言われ、これと同じ皿を五枚焼いてくれと頼まれた。
そうして。
同じように五枚ばかり焼いて納品すると、
「お姉ちゃんの皿、気に入ったよ」
と大将は褒めてくれた。
ほどなくして。
どうやら魚屋の大将があちこち触れ回ってくれたらしく、
「うちの刺し身皿も焼いてくれないかな」
という仕出し屋や、常連に配る贈答品に使いたいからと発注をしてきた刃物屋のオーダーで、角皿や小鉢を焼いては納める日が三ヶ月ばかり続いた。