【完】『大器晩成』
そうした納品が落ち着いた頃、
「久しぶり」
と引き戸を開けたのは、梓である。
こまめに連絡は取っていたが、互いに会うのは半年以上ぶりであった。
「すごいね、眞姫」
「ありがとー」
でも、と眞姫は、
「あずにゃんだって今じゃ売れてんじゃん」
この頃の梓はというと。
河原で撮影して動画にアップしたダンスの映像で、偶然に黄色の新幹線が映り込むという奇跡的な出来事があった。
それが切っ掛けで。
ネットニュースで話題となり、アメリカのアーティストのワールドツアーに帯同するという好機を得たのである。
「今じゃ世界のあずにゃんだもんなぁ」
眞姫は遠い目をした。
「けどさ、眞姫が陶芸家になったって聞いたときは、みんなビックリしたんだよ」
「そうかな?」
あれはあずにゃんが言ったことが一番の転機やった、と眞姫は、梓が語っていた例の話をした。