【完】『大器晩成』
昼の店番が板についたある日、たまにやって来ていた泉尾の解体屋の社長と言うのが、
「どや、卒業したらうちの会社で働かんか」
と言って、就職の支度金といって封筒を眞姫に渡そうとしたことがあった。
が、
「アレは愛人にするための手付金やで」
と叔母が気づいて、話を御破算にしたことがある。
「せっかく金がもらえる算段やったのに、勝手なことしくさってからに」
あとから一部始終を聞いた父親は色をなして赫怒したが、どうやら目論見はその通りであったらしく、
「あれは娘を金づるぐらいしか思ってへんのとちゃうか」
と叔母がぼやいたのが、眞姫には妙に脳裡にこびりついたままであった。
卒業する頃の眞姫は、
──平尾に掃き溜めの鶴がおる。
といって噂になるほどの、色の白い切れ長の目をした美少女に育っており、
「解体屋が目をつけたのは慧眼やったんやな」
などと、常連の年寄りどもの口性(くちさが)ない話の餌食にされたのであった。