【完】『大器晩成』
翌日から。
眞姫は麟太郎の言っていたエントリーの締め切り日に間に合うよう、土を練りながら作品の構想をまとめ始めた。
題材はフリーである。
眞姫が目指したのは、土をキャンバスに彫刻で画題を彫る…というコンセプトであった。
三日ほどかかって大柄な花瓶の形を作ると、乾燥までの十日間、眞姫は書棚の画集と睨み合いをしたまま、頭中で構図を練った。
十日後、いよいよ成形して彫ることになると、
「…よし」
何か閃いた様子で、小さな蝶を迷いなく彫り始めた。
明治の頃の京薩摩のような、精緻な図柄を目指したらしい。
根気よく毎日、数百頭もの小さな蝶を彫り続け、七日目に全てを彫り終えた。
一尺近い花瓶に、豆粒大の蝶をびっしりと彫ったのである。
これを素焼きし、窯出しを待つ間に同じような花瓶をもう一瓶作り上げ、併せて二瓶も釉薬前に仕上げた。
あとは、釉薬をかけて本焼きをするだけである。