【完】『大器晩成』
ついに。
窯出しの日が来た。
この日は。
力仕事の手伝いにと、麟太郎が横須賀から来ていた。
蓋を開けるまで分からないのがこの世界で、例え安定した火力の電気の窯でも、色が出ないことはある。
恐る恐る、蓋を開けた。
銅青磁は色もまあまあで、よく焼けている。
問題は均窯であった。
色はすばらしい薄紫になっているのだが、縦に大きく稲妻型のヒビが入ってしまっていたのである。
通常なら。
この段階で作品は割るのが当然であろう。
が。
麟太郎は、
「案がある」
と言うなり、花瓶の口に手をかけ力をグッとかけ、真っ二つに割ったのである。
どうするのかというと。
鞄から取り出した糊のようなもので真っ二つの花瓶を再び合わせ、
「金継ぎを施せば変わる」
と言った。
使ったのは漆で、
「これで一週間ばかり乾かしてから金箔を打てば、金継ぎは終わりだ」
と言い、後日あらためて金箔の打ち方を麟太郎は眞姫に教えて貼らせた。