【完】『大器晩成』
その後も根掘り葉掘り訊かれたので、赤い眼鏡を勝手に変えた話や、高校に行かせてもらえず水商売をしながら夜学に行った話などをして、その場は話が終わった。
帰りに自転車を押しながら、
「どこまで迷惑かけよるんや、あのオトンは」
と、半泣きになりながら市場の目抜通りをとぼとぼと歩いていたが、
「…お姉ちゃん、どうした?」
気づいた寿司屋の大将が声をかけてくれた。
「まぁ、こんなところで立ち話もあれだから」
といって店の奥に椅子を置いて話を聞いてもらうと、
「それは可哀想になぁ」
と、大将はお茶を振る舞ってくれた。
「せっかく作品展で入選したのに、泥を塗る親がいるもんなんだねぇ」
裏から大将の奥さんが出てきてお菓子を出すと、眞姫の話を聞いてたのか、
「もうさ、うちの娘にでもなっちゃいなさいよ」
と言った。
「うちは子供もないし、眞姫ちゃんには店も世話になってるし」
しかしさすがに本当に娘になるのは迷惑だろうからと眞姫は思ったのか、
「お気持ちはありがとうございます」
といい、深々と頭を下げて店を出たのであった。