【完】『大器晩成』

眞姫がマリエとして働き慣れた頃、店に紹介で来た客があった。

「マリエちゃん、この人見たことある?」

言われて顔を見たが分からない。

「テレビでよく出てる陶芸家の桜岡麟太郎やって」

そう常連の老舗の洋食屋の料理長に言われたが、テレビをほとんど見ないマリエはピンと来なかった。

マリエの目の前にいた桜岡麟太郎というのは、およそ陶芸家らしくない真っ赤なシャツと黒い蝶ネクタイに古着の和柄のパーカーを羽織り、デニムのパンツに兵隊靴というパンチの効いた姿である。

「マリエちゃん、良かったら相手してあげてや。こいつこういう店、はじめてらしいねん」

料理長はもの慣れた言い回しで頼んでくる。

「今度お店でステーキ安くしてくれるならいいですよ」

「マリエちゃん抜け目ないなぁ」

言いながらも笑って諒としてくれたようであった。



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