Bar Cinderella
序章
2012年12月

深夜11時、受験を控えて塾から帰ってきた俺に飲んだくれのおっさんがつっかかる。

よくわからねぇけど、すげぇ馬鹿にしてきやがってマジでムカついた。

「てめぇなんだごらぁ!!!塾帰りのエリートですって面かぁ?勉強なんてしても所詮どこの会社も受かんねぇよ!」

ムカつく。

でも、親父の店の前で揉め事なんか起こしたら親父に迷惑がかかる。

無視して家に入ろうとする。

「無視してんじゃねぇッ!!」

ーーーードカッ!

「ぐ……ッ」

疲れてんのにこの謎の仕打ちムカつくけど怒ったら親父に迷惑かかるかもしれない。

「てめぇなんか親父のやってるクソショボイ居酒屋で一生ゴミみたいな暮らししてりゃいんだよぉッ!」

ーーーーブチッガシッ

ーーーーバシャ

何が起こったのかわからなかった。

俺が男を殴ろうと掴みかかったのは確かだ。

「営業妨害だからここら辺で騒がないで。」

バケツを持った少女が俺の目の前で酔っぱらいに水をぶっかけたんだとわかった。

「なんだてめぇ!」

「帰れって言ってるの。帰らないならさっきのを録音したスマホと一緒に警察行く。」

男は舌打ちして悪態つきながら帰っていった。

「あの、大丈夫ですか?」

そう言って差し出された絆創膏と湿布はひんやりとしていて、俺の苛立ちを少しずつ冷ましていくようだった。

「あなたは凄く立派ですね。かっこよかったです。」

何が立派だったのかよくわからない。

でも、凄く心はホッとしていて寒いのに温かい気持ちでいっぱいになった。

少女はそれだけ伝えたら帰ってしまった。

おそらく俺が塾帰りだから引きとめないためだろう。

彼女の事知りたい……もう1度会いたい。

その時はただお礼がしたいから会いたいだけだと思っていたけど、それは紛れも無く特別な感情で

”恋に落ちた”

のだろう。
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