興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
「狡いかな…俺…」

え、あ、抱きしめられてしまった。ドクン、ドクン、ドクン…。胸が苦しい。痛いくらい強く鼓動し始めた。…これは、…こういうのは狡いと思う。こういうのは、非現実の世界で、現実にはあり得ないと何度も思い描いたモノ。それが意図も簡単に…ではないにしても…現実に…。
私の心、好きだったという事実、呼び起こされてしまう。ずっと好きで……なのにあんなに…忘れようと泣いて、終わりにしようとしたのに。………解った。素直にすぐ返事が出来なかったのは、そのせいもあるんだ。
あんなに忘れようとしたのに、突然好転したからといって、気持ちはそう簡単にはいかないって思ってるからよ。泣いて忘れようとした分、直ぐ返事は出来ないと突っ張っているんだ。
そう…素直じゃないんだ。どこか拗ねてしまったんだ。意地?

「…狡いです、課長。凄く狡いです。……こんなの。私は…私で、勘違いでも…もう…課長の事は、無理だって…一度は諦めようと努力したんです。それで、もう、思いにはケリをつけようとしていたんです。終わらせたんです。そう努力しました」

「…うん。すまない」

…あ。もっと強く深く抱きしめられた。

「思い込んで、勘違いして…駄目なのは私なんです。それは解ってます。でも、課長、そういう私にこれは…狡いです」

「…うん。泣かせてしまってすまない。困らせてるんだな…、俺の思いは」

…ぇ…私、困っているの?…。

「あ、誤解しないでくれよ?」

課長が身体を離す。

「こんな事しようとして企んで、初めから部屋に呼ぼうとした訳じゃないからな?これは、その、…偶然の、成り行きの、俺の心のハプニングだ」

…課長。…人の事は言えないけど、課長は本当に不器用な人なのかも知れない。
女性や恋愛というものに対して。

「その部分は大丈夫です。解ってます。課長が企んだりするような人だとは思っていませんから」

「そうか。…ふぅ」

「…はい」

「藍原、ベランダに出てみないか?」

「え、は、い」

場所を変えて、気分転換…にかな。
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