興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
「…ショックが激し過ぎて、買い物袋を落としてしまったんですよ?
沢山買ったスイーツも…グチャッてなってしまって…。
課長のせいではありませんが、課長のせいですからね?」

「それは…藍原の勘違い、早とちりのせいだろ?
俺は何も悪く無い」

「そうですけど…とにかく落としたんです。
スーパーで買った美味しそうな幕ノ内弁当も、容器の中ですっかり混ざってしまったんですから…」

「……藍原…」

…キャ。ゆっくり抱きしめられた。

「あ、すまない。つい…」

…離れた。…課長?

「…拗ねながら熱弁する藍原が可愛過ぎてだな。…それで、つい。どうしても、抱きしめたくなったんだ。俺は随分自分勝手だな」

キュンとした…。当たり前だ、抱きしめられたんだから。

「課長…あ、の」

「はぁ、…こんな藍原を今まで沢山見られてたんだよな……。ちゃんと告白して、付き合えていたら。やっぱり勿体ない事してるよな、俺…」

「課長…。そういうのキュンとします。そんな事を素直に口に出して…、ドキドキさせないでください」

「藍原…?」

あ…。
ジーッと見つめられて、腕を伸ばされ、また抱きしめられた。

「……ごめん。やっぱり抱きしめたい。…藍原だって。普通そんな事、口に出して言わないだろ?…面白いやつだな、藍原…、狡いぞ…」

私も自分で自分がおかしいと思っている。…冷静なんだ。ドキドキしながらも、自分の事を他人事のように話している。何だかさっきから課長と話している内に、自然に話せるようになって来たのかも知れない。それもあるのかも。…パンツの話が良かったのかも知れない。
仕事じゃない課長と話すのは凄く新鮮だ。あ、課長…長いですよ。今度は中々離してくれませんが…?

「どこか、店に行って話をしようかとも…最初は思ったんだ。だけど、こんな話だし。
それに、何となくだけど、藍原にここを見て欲しかったのかも知れない。そんなに新しくも無いマンションだけど、落ち着くし、藍原には部屋の話とかしてただろ?だから、何となく、俺の住んでるところを見て欲しかったんだと思う。よく解らん話だな。何となくばっかりで」

「いいえ、でも…。私も、敢えて、何となくって言いますけど、何となくって解ります。
解りましたよ?課長の言っている事の意味」

「そうか?」

「はい。…結婚しても、ずっとここに住みたい、みたいなのもありますよね?」

「そう!そうなんだ藍原!」

キャ。…く、苦しい。

「か、課長ー…苦しいです」

「お、おお、悪い。すまん。気持ちを解って貰えた事が嬉しくてだな、つい。…あ、あれだよな、マンションの話って、藍原…そうだよな、俺と話すために…」

「はい、きっかけの一つです、…でした」

「あー、だよな。おかしいと思ったんだ。いかなり話が飛んだから」

でも答えてくれました。

「藍原、晩御飯食べに行かないか?」

「え?」

「いや、まだ早いからもう少し経ってからの事だけど。帰りは送るから。どうだ?嫌か?もう帰りたいか?」

「いいえ。嫌なんかではありませんよ」

「じゃあ決まりだな。あ、そうだ、DVDでも観るか?」

「アニメですか?」
…。
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