興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
慌てて追い掛けようとするけど、中々上手くスリッパが脱げない。ストッキングのせいよ、変に離れてくれないんだから。

やっとサンダルに履き替え、後を追った。
後ろでスリッパの一つは雨になっていた。

坂本さんの背中は、突き当たりの部屋、閉まりかけたドアの向こうに消えかかっていた。

咄嗟に手を伸ばし、ドアに手を掛け、足を挟み込んだ。

「…藍原。話だけでもと、粘る訪問販売のお兄さんか?
それとも、容疑者確保に現れた刑事か?…どうしたんだ。…足、挟まって痛いだろ」

確かに。引き付けて閉めようとしているドアに挟まれるとサンダルでは痛かった。

「待ってください、坂本さん」

…。

「何かご用でも?」

うっ。…言い返された。

「…ご用というご用かどうか。でも…」

「特に無いなら、いいんじゃない?ドア、離してくれる?足もだ」

これ以上は開けてもくれないんだ。背中のまま…。向き直してもくれないのですね。

「私はただ…坂本さんが言ってくれたから。だから、会わなくても、聞かなくてもいいと思っていたのに、課長に会って…」

「もう、いいんじゃない?…だから、…いいんじゃない?もう…いいだろ…」

あ。ドアにかけた指を外され、足を押し返された。
パタン、カチャ。カチャカチャ。
あ…。鍵…かけられた。
…もしかして、これは、険悪…、拒絶って状況、でしょうか。


はぁ。何を…追い掛けて来て迄、今更…何を、話す事がある。上手くいったんだろ?
事細かく今日の事、報告でもするつもりだったのか?
藍原、空気を読めよ、空気を。状況を考えろよ…本当に…鈍いな…。
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