興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
…この人、知ってる…。直ぐ解った。
この人、金曜の卵大丈夫男だ。
いや…こんな失礼な記憶の仕方。親切にしてくれた相手に対して有り得ない無礼。
……私の事、意識を飛ばしてた女だって、気づくかしら…。いや、気づく気づかないの問題じゃない。
こっちが気づいているのだから、私からきちんと挨拶してお礼を言うべきよね。
口を開き掛けていた。

「あ、の」

「AIHARAさん?あいはらさんて言うんですよね」

はい?あ、表札ね。

「最近は物騒だから、名前とか、こんな風に表示しない人多いのに」

…何ですと?私が危機管理に無頓着で、まして、狙われるような女では無いと?
そこまでは言ってないか。

「はい、藍原です。…こんにちは」

お礼言うの止めようかな…。

「スイーツは美味しかったですか?あと、卵、大丈夫だったでしょ?」

え?ええー!?何で…バレてたの?…。気づいてたの?
失礼な感じがしてマスクを取った。それもおかしい気がするけど。

「あ、あの、金曜日は声を掛けて頂き有り難うございました。…美味しかったですよ?まだ全部食べた訳じゃないですけどね」

嘘だ。一つたりとも手をつけていない。そんな気分にはなれなかったからだ。

「え?あ。プッ。アハハハ。…すみません。ごめんなさい。いや〜全部食べたかなんて、そこまでは聞いてないんですけど。あれは…全部、ご自分の物だったんですね〜」

く…このー。そ、それが何よ。一杯食べちゃいけない決まりなんてないでしょ?それに休みは二日あるんだし。

「あ…、失礼しました。これ…、良かったらなんですが。お早めにお召し上がりください」

ハ、ハハ。引っ越しのご挨拶にと差し出された物は箱から見て“スイーツ”のようだった。

「すみません、お隣りさんが貴女だとは知らず、…何だか、選りに選って“スイーツ”なんて。申し訳ない」

そうなのだ。彼が入った部屋は突き当たりの角部屋。だからお隣りさんは私だけ。

「い〜え〜、ご丁寧なご挨拶、有り難うございます。
雨の中のお引っ越しは大変でしたね。スイーツ、大好きですから。
では…遠慮なく頂きます」

「何だかバタバタの転勤で。すぐ仕事なんで、荷物を入れるのは今日しかなくて。幸い小雨なので何とかなってます。あ、月曜から宜しくお願いします」

…え?はい?部屋は月曜からって意味かしら?…別にそこまで詳しい説明は要らないですけど?

「そうですね、どしゃ降りって程ではないですから良かったですよね。もう止みそうですしね。…では」

「あ、俺、どうやら藍原さんと同じ会社みたいなんで。チラッと大家さんから聞きました。それでは、失礼します」

……はぁあ〜?!…うちの社員?

「えーっ!」
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