興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
「坂本」

「はい」

何だろう。

「外に出る前に少し時間貰えるかな」

まだ就業時間前だ。

「はい、課長が良いなら、今でも大丈夫ですが」

「では、あっちに行こうか」

「はい」


課長が珈琲を買って俺に渡す。
礼を言って受け取った。

「あっちに座ろうか」

「はい」

もう直ぐ就業時間だ。休憩室にも、喫煙室にも、人影は無かった。

「特に何がって訳じゃない。坂本だから話しておく。
これは課長では無い、一人の男として話す話だ。だからそのつもりで聞いて欲しい」

「…はい」

藍原の事か。そうだよな。

「最近、藍原は俺の部屋に泊まっている」

ぐっ。…。解っている。やっぱり。藍原の事だ。
解ってはいたが、当事者、しかも相手側からは聞きたくない言葉だ。
チラッと視線を感じた。

「だが、それだけだ」

課長は一口、珈琲のコップに口を付け飲んだ。

「え」

…どういう意味だ。それだけの何が不満なんだ。…泊まってるんだろ?

「俺の部屋に来てご飯を食べる。外食して帰る事もある。風呂は入る。…別だぞ。
寝るのは一緒だ。朝ご飯を食べる。藍原を自宅に送る。それだけだ。今はそれ以外何も無い。解るか?言ってる意味」

…ただの泊まり?…まあ、一緒には寝てるのか…。

「どうしてそれを俺に。どうしてそんな話を」

わざわざ。

「坂本だからだ。…気になるだろ?」

…そんなのは。……当たり前だ。気にしたらキリがない。だから、考えたくもない事だ。
返事をしないのはイエスと認めた事と同じになる。だよな…。
違うならノーとハッキリ言えるんだから。

「聞くのは愚問だったな。…正直、俺にもまだ解らないんだ。藍原が」

…。
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