興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
ニッと笑って部屋に戻って行った顔が嫌に記憶に残っていた。

…はぁ。月曜の我が課は、何だかざわついていた。原因は解っていた。きっと、隣の部屋のあの男だ。そうに違いない。だって、居るものそこに。

「はい、みんな、ちょっといいか、聞いてくれ。今日からうちの課の一員になる坂本君だ。
坂本、少し自己紹介してくれ」

その声でみんながそれぞれのデスクで立ち上がった。
課長の横に立っていた坂本君は、背中に手を当てられ少し前に出た。

「はい。おはようございます。本日付で神奈川からこちらに配属になりました。
坂本、尚紀、と申します。え〜、………宜しくお願いします」

名前の後、何かありそうで無かった間に、みんながドッと沸いた。
中にはカクッとコケて見せる者も何人か居た。全体が自然に和んだ。
…坂本君、掴みはOKみたいですね。

「あ、何か知りたい事とか、興味を持って頂いた方は、個人的にという事で受け付けます。
詳しい自己紹介は…ちょっと、個人情報にかかわるんで」

男性社員はウケていた。まあ、坂本くらい男前だったらな、色々あるんだろうって言って、勝手に想像してるからだ。それを思わせる容姿であることはまあ……確かだけど。
まあね。…彼は多分、モテるだろう。話し上手な人はそれだけでも好意的で楽しいし…。妙に人懐こい感じだし…。

営業の大友さんが急に退職する事になった。ご実家の都合で家業を継がないといけなくなったらしい。その大友さんの後を引き継ぐ事になったのが、坂本君という事だ。大友さんと同じ、中堅のやり手と言ったところだろう。だから、…容姿も良くて仕事も出来るなら、…モテるだろう。取引先でも人気が出るかも。
ほら、もう、早速、ちらほらと浮足立っている女子が居るのが見て取れるもの。

坂本尚紀君か…幾つ何だろう。
別に興味がある訳じゃないけど、名前しか言わない自己紹介なんて。普通、何か付け加えるようなことするわよね、名前だけで精一杯っていうド新人が挨拶する訳じゃないのに。
まあ、人に興味を持ってもらうにはいいやり方かも知れない。何も知らなければ、パーソナル情報を聞くきっかけで会話が自然と増えるだろう。


「藍原〜」

「はぁ、ん゛ん゛っ、はい」

紹介も終わり、みんなそれぞれ仕事を始めようとしていた。
軽い緊張かな…声が裏返りそうになった。
……課長。何だろう。
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