興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
取り敢えず課長の元に急いだ。……複雑。

「はい、何でしょうか」

…私…ショックが隠せませんが…。

「金曜日…」

「…は、い」

…緊張が走った。え?何?金曜日が何?…まさか。課長の遥か後ろで私が真っ白な灰になっていたのを、ご存知なのでしょうか?あっ、それとも、仕事……金曜に急いで作った書類にミスがあったのだろうか。

「書類の礼を改めて言おうと思ったのに、戻って来たらもう帰った後だった。だから、ちゃんとお礼を言っておきたくてな。
有難う。本当助かったよ。金曜なのに、帰りかけていたところを引き止めて悪かったよな」

…あ、お礼。……そんな…そんなことは…。

「別に、本当に用もなかったですから、大丈夫です。特に気にしないでください。仕事ですから」

そう、仕事。課長から声を掛けられたけど、それは私が期待した特別な誘いではなかった。仕事を頼まれただけだった。金曜日、お詫びを言われるような用なんて元々なかったし。

「それでだな…、お礼がしたいんだけど、水曜、空いてないか?明後日の水曜なんだけど。
いや、こっちで先に都合を決めて悪いんだけど、水曜が都合がいいんだ。どうだろう、急で悪いんだが、仕事終わり、時間あるか?
ご飯でも行こう」

え…ご飯。課長と…ご飯?…。

「そんな…。大袈裟な事。返って悪いです」

ああ、この誘い…。何も知らない私のままで聞きたかったな…。
そしたら、例えそれがお礼の食事だとしても、天にも昇る気持ちだった事だろう。
今は誘って貰っただけでも有り難い事だと思わなきゃね…。

「あの書類はどうしても金曜に渡したかった物だったんだ。時間は迫ってくるし、内心焦ってたんだ。だから凄く感謝してるんだ。
だから都合が悪くないなら断らないで欲しい。俺がそうしたいんだ、遠慮ならしないで欲しい」

はぁ。なんて強い誘い…。
ここは割り切って行くのが大人というもの。

「…解りました。都合は大丈夫です。是非、お供させてください」

「よし、それじゃあ決まりだな、水曜で。また前日に段取りを伝えるから。楽しみだな」

「あ、はい」

これでいいよね。楽しみだな、なんて、あぁ…ありもしない期待をしてしまいそうです、課長…。嬉しいのに……虚しい。

「藍原さん」

「うわっ、坂本、君…」
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