興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
「藍原〜」

「は〜い」

指先を、来い来いと言わんばかりに動かし、心なしか嬉しそうに呼ぶ。
…何かな…。


「はい、何でしょう?」

近付いて伺いを立てた。

「今日、一緒に帰ろう」

声を潜め、食事をするつもりで誘った。

「えっ?でも今日は…」

約束はして無いはず…。

「久し振りに早く終われそうなんだ。…だから、ん?」

あ、…もう…。そんな顔をされて終うと。
う〜ん。
私も普通に退社出来るとは思うけど…。

「…解りました。あ、でも、今日は何も持ってなくて」

「ん?…あ、ああ…、大丈夫だ」

大丈夫?…どうして?
まあ、このままでも大丈夫は大丈夫という意味かな。
突然部屋に行った場合と同じだし。

「…はい」

「じゃあ、一緒に帰ろう。帰りにご飯食べて……」

「え?」

最後までよく聞き取れなかったけど。
話はあまり出来ないものね、仕事中のフロアだし。

「ん?」

「あ、いえ。では、また終わった時に」

「ああ。一緒に出よう」


…藍原…さっきの感じだと、そのつもりでいてくれてるって事か…。そんな感じだった。
俺、部屋に来るかとは、言わなかったんだけどな。
…ん〜。


「課長。…課長?あの、ハンコください。…課長?」

「…あぁ、あ、はいはい。はい、…と」

「課長?」

「んあ、はい?」

「何かありました?」

「いや、無いよ〜。しいて言うなら、これから、かな…」

「は、…は、あ」

男性社員は首を傾げながら戻って行った。
…駄目だ。
普通にしているつもりでも、普通でいられてないんだな。
緩んでいるんだな、きっと。
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