興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
「一応、料理は頼んであるから」

「あ、はい」

あー、緊張する…。

「んー?何だか、いつもの藍原と違うな。らしくない気がする」

「え?あー、すみません。何だか緊張してしまって」

だって二人きりですから。緊張しないでいる方が無理な話です。ロボット歩きになってないか、不安だ。

「ハハハ。…おっかしいなぁ。そんなに気を遣わなくて大丈夫なのに。
いつもと同じでいいんだよ」

「…はい」

無理です。もう…無理です。緊張の理由は簡単に言えない。
エレベーターと車の密室の緊張だってまだ残っている。

お料理は会席料理?だった。
車という事もあり、ノンアルコールのビールを出して貰った。

「じゃあ、藍原に感謝という事で」

グラスを少し上げてお礼を言われた。

「いえいえ、私にとっては仕事ですから」

そんなに感謝されるととんでもなく恐縮してしまう…。

「でも助かったよ。どうしてもあの日に渡す必要があったから。部長も在席してない事が多いし、話もできたし、本当、助かったよ。有り難う」

「あー、では、どう致しまして」

「ん。ん?…ん?…藍原、これ」

「は、い?」

「本物じゃないか?」

「え?」

「あ、待て、飲むな。ちょっと確認する。…俺、もうグビグビ飲んでしまったぞ」

小さめのグラスだ。課長のグラスはほぼ空いていた。

個室の電話を取ってコールすると、出された物が本物のビールではないかと確認している。
どうやら間違って出されたらしい。
課長は仕方ないですねと、納得していた。


「失礼いたします!」

電話を切ってすぐの事だった。
パタパタと慌てて現れた給仕さんが、替わりの飲み物を持って来て置いた。

「大変申し訳ございませんでした。こちらの手違いで、誠に申し訳ございませんでした。お体の具合が悪くなったとか、そちらの方は大丈夫でしょうか」

あー、体が受け付けない人も居るから…。暫くの間、気の毒になるくらい手をついて謝っていた。

「あの、お車でお越しでは…」

「大丈夫ですよ。気にしないでください」

「代行を…」

「いや、御心配なく」

穏やかに対応する課長に安堵したようだった。深く頭を下げ戻っていった。


「さて…と、藍原は運転免許は?」

「え?」
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