興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
…。

妙に会話がフェードアウトしたみたいになってしまい、暫くの間、互いに言葉を発する事も無く、静かに食べ進めていた。
何だかあれこれと思いが渦巻いていた。
食事もそろそろ終わってしまう頃だ。

「デザートにしようか、大丈夫か?」

「あ、はい」

課長が連絡を入れた。


わぁ…。思わず声が出そうになった。綺麗な芸術作品のような和菓子と緑の濃い抹茶が運んで来られた。
これは…食べてしまうのが罪な気がした。
一つ一つ丁寧な手作業で作られた物を、このスティックで突き刺したら最後、跡形もなく私の胃の中に納まってしまうのよ…。
壊すのは勿体ない気になってしまう。でも、食べてしまおう。…美味しそうだし。
…あー、子羊を可愛いと一方で言いながら、ラム肉を食べてるのに近い気もする。
残酷さの違いはあるけど…。

「…随分と悩んでいたようだが。もしかして、このタイプの和菓子は駄目なのか?」

「あ、いいえ、違います。食べる為に作った物とはいえ、細かな作業で作られた綺麗で繊細な和菓子です。崩すのをちょっと躊躇っていただけです」

「そうか。でも結局、…食べちゃうけどな?」

「はい、結局は食べますけど」

二人でパクっと食べた。

「フッ」

課長が笑う。私も笑ってしまった。


「さて…、ボチボチ帰るとするか」

「はい」

……食事は終わった。
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