興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
「ナビ見ながら走るか?それとも俺のナビにするか?」

「課長はナビ、上手ですか?」

「さぁなぁ。わざと違う道を誘導するかもな」

え゙、そんな…。今はその冗談が辛い。
瞬時に都合のいい良からぬ思いも過ぎる。

…何処かに行くのですか?
まさかね…そんな事は、無いに決まっている。

「…では、本物のナビにします」

「嘘、嘘。ちゃんと案内しますから、うちまで宜しくお願いします、藍原様」

はぁ、今は面白可笑しく返す事も出来ない。もう私には余裕が全く無い。

「…解りました。信じます。でも早めに誘導してください」

「了、解」

…。

「あれ?てっきり藍原が、出発進行、きゅうりのお新香って、言うのかと思ってたのに」

「…じゃあ、帰りますよ」

「あ、スルーしたな。…まあ、いいさ。
取り敢えず左に出て道なりに暫く走ってくれるか」

「…はい」


こうやって走り始めたという事は、一緒に居る時間が終わりに近付いているという事。
課長が言ったみたいに、違う道を走るとロングドライブだけでも出来るんだけどな。
ちゃんと指示してくれてるようだし、このまま迷わず家に着いてしまうのね。


「…藍原、帰りたいか?」

え、え?…何です?それはどういう意味ですか…。

「このまま、真っ直ぐ行くか、左に曲がるか、…どっちがいい?」

何を聞いてくるのですか、そんな…、駄目よ。よく解らないまま期待だけが膨らんで来そうだもの。
私の選択次第で、もっと一緒に居られるのですか?
でも私にはどっちが課長の家の方かは解らない。だから私の運に委ねたとか?……運?
私が何かを望んでいると…察したのですか?
何故こんな聞き方を…。…。

「どっちが課長の部屋に帰れる道ですか?」

…これでいい。課長に決めて貰おう。
意図の解らない投げ掛けを、都合よく解釈してはいけない。

「…。左に曲がってくれ」

左が課長の決めた行き先。これでいいんですよね、これが課長の答えって事ですよね。

「左、ですね、では、…左に行きます」

カチカチとウインカーの音が響いた。左の走行車線に移動した。

もし…真っ直ぐだったら?
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