興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
誰?どこから私を呼ぶ声がしてるの?
本当はこの声の持ち主は直ぐに解った。キョロキョロ首を振って確かめて見る。…ちょっとだけ小芝居をした。
課長と目が合った。
自分で自分の顔を指差してみせた。
うん、うんと課長が頷いている。
…これは。私の心の声をキャッチしてくれたのだろうか。
だとしたら凄い。以心伝心というモノかしら。
「はい?」
課長のデスクに近付いた。…何でございましょうか。
「藍原、この後時間あるか?」
え?嘘…やった。やりましたよ。これは、もしかして…。千載一遇の?…じゃないの?。
「はい、有ります!」
いくらでも有りますとも。それで、一体どういうご用件でしょうか、どこに行くのです?やっぱりご飯行かないかとか、お誘いですよね?時間は有り余るほどありますよ?
「うん。悪いんだけど」
はい!……はい?…ん?悪いんだけどって今、言いました?いえいえ、全然悪くないですよ?…え?
「この書類を…」
…。あ〜、書、類…。…仕事のお誘いでしたか……当たり前かぁ。そうですよね、当たり前だーー。ですよね?
ひとときの夢……覚めるの早かったな…これが現実というものだ…。
「…で、頼めるか?」
え?や、いけない。聞き逃してしまった。
「…課長…すみません。もう一度、お願いします」
「あ?……ああ、まあそうだな。帰りたいと思っているところを声を掛けて大変申し訳ないのだが…、この書類を清書して欲しい、と言ったんだが?」
あ…いや、帰りたいとか、そんな事は思ってないんですよ?…思ってたけど。課長と一緒になら。…お誘いならと…期待しただけです。
「出来たら入力ミスが無い事を確認して部長に提出したい。とても大事な書類なんだ。藍原に頼みたい。
いいかな?
正確に迅速に頼む。部長が帰る前に渡したい。それがこれだ。
と、いう事で、頼めるかな?…藍原様?」
「はい。直ぐに致します」
…仕事。……仕事の話だ。
「ん、本当に、急に悪いな」
いえ。いやいや…。藍原様だなんて…冗談としても恐れ多い。
それに一分一秒を惜しむように畳み掛けられたら、躊躇している時間などない。……切り替えなきゃ。
ここは課長の為にも急いで仕上げないと、ですね。