興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
背中をゆっくり撫でた。

「…休憩時間に…、ちょっといいかって、課長に呼ばれました」

「…ああ」

どうやら話したいみたいだな。もう限界か、一杯一杯になったらしい。

「それで、ご飯のお礼、言えて無かったかも知れないと思って、お礼を言って」

落ち着いて来たようだな。そうか…、昨夜課長とは、ご飯に出掛けていたのか。

「それで、私の嘘の恋人の話の真相は解ったから、だから、誤解が解けたから言えますって。…課長に。
…ずっと好きでしたと言って…終わりです。…終わりました」

嘘の…恋人?

「…そうか。なあ藍原、気になる事、聞いてもいいか?」

「…はい」

「嘘の恋人って、何?」

「あ、…それは、私にはいつの間にか、長い間つき合っている恋人が居るという噂がずっとあったんです」

「何それ…。居ないのにか、どうしてそんな事になったんだ?」

首を振った。

「解りませんでした。でも、それを言ったのは、昔…酔っ払った課長だったという事を、昨日課長から聞きました。課長ももう、昔の事だし、お酒の席の事だし、記憶も曖昧になっていたようで…もしかしたらって感じの話で…」

「課長が?」

そんなこと言っておいて忘れてたなんて、そんなこと、本当なのか、いくら酒のせいだと言ってもだな…。

「はい。…私が入社した年の歓迎会での事だったそうで。
課長の後輩さんが、私の事、良くないですかって、言ったとかで…。それで、課長が、あの子は長い間つき合っている人が居るらしいって、言ったって。みんな凄く酔ってたって。そこに居た人の中だけの話が、いつの間にか広まったんじゃないかって。お酒の席の事です。覚えてなくて当然と言えば当然です。その場の、盛り上げみたいなモノだったと思います。だから、長い間、悪かったなって感じで、凄く謝られました」

「…そうか」

…なるほど。それは…。そういう事か…。
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