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「で、コアオハナムグリさん。団子虫、返してください」

「は? コアオ……なに?」

「ハナムグリさん」

「誰?」

「いや、あなたの名前、知らないから」

だからって、人を変な名前で呼ぶな。
いやいや、その前に。

「団子虫なんて私、持ってないわよ」

え?と虫王子はきれいな瞳をまん丸にして私を凝視した。
鳩が豆鉄砲をくらった時はこんな顔ですよ、のお見本みたいな顔だ。

「じゃあ……どうしたんですか? 俺の団子虫」

「どうしたって……」

振り回している間にどこかへ飛んで行った、と言おうとして、ふと気がつく。
なぜだか知らないけれど、さっきから彼は『俺の団子虫』と言う。

それはつまりあの団子虫たちは彼にとっては大事なものだったのかもしれない。
つまり……食料にするとか。

まさか!

それはさすがにないと思うけれど。

「えっと。逃がした」

飛んで行った、よりはこっちのほうがまだましな気がしてそう答えると、虫王子は一瞬ぽかんとして、それからにっこりと笑って「なぁんだ」とほっとしたように言った。

「優しいんですね。コアオハナムグリさん」

虫王子はそっかそっか、とつぶやきながらリュックサックのファスナーをじじーっと開いて、中のものを取り出した。

「ひっ」

虫かごだ。
小学生が夏休みに持って出かけるような、透明のプラスチックのもの。
蓋の部分は青色で網のようになっている。

一瞬、身構えたけれど、その中身は空っぽだった。

「でも違うんですよ」

コアオハナムグリさん。

虫王子はにこにことしながら話を続けた。
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