bug!
「コアオハナムグリさんの推し虫はなんですか?」

虫王子、こと児島晴は無邪気な笑顔で私に問いかける。

さっきから、突っ込みたいところが多すぎて、もう追いつかなくなってきている。

「なんか、俺べたなの言っちゃったから、聞くのどきどきするなー」

「何度も言うけど、私、虫好きじゃないし」

それに。
反撃する隙を与えないように、私はまくしたてた。

「コアオなんとかって名前で呼ぶのやめて。虫、嫌いだから寒気がするの」

「コアオハナムグリは嫌ですか? ほら、ハルジオンの花に頭突っ込んで花粉食べたあとに、顔に花粉つけてるとことか、すごくかわいくないですか?」

「全然わかんない」

「そっかぁ。じゃあきれい系でカラスアゲハさんはどうですか? 羽、青や緑に輝いて見えるとことか神秘的だし」

「全然、わかんない」

「うーん。きれい系もだめかぁ。じゃあかっこいい系でクルマバッタモドキさんとか?」

「もうやめて」

「じゃあなんて呼べばいいんですか!?」

ちょっと怒ったようにそう聞かれて私は思わず「桜子」と答えていた。

「サクラコ? そんな虫いましたっけ?」

「虫の名前じゃないわよ!」

本当に失礼な人!
失礼だし変な人だし。

「あ、そういうことでしたか!」

晴は納得した様子でにっこり笑うと言った。

「桜子さん、いい名前ですね」

それからこう続けた。
王子様みたいなきらきらの笑顔で。

「俺、桜子さんともっと仲良くなりたいです」

と。
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