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もしかして、送ってくれちゃったりするのかな?
なんて、内心どきどきしているのを隠すように「あっち」と短く答えると、晴は「もしかして」と目を輝かせた。

「河川敷のほうですか? あの大きな公園の?」

「そうだけど?」

「まじですか!?」

いいなぁいいなぁ、と晴はうらやましそうに繰り返す。

なにが?と聞き返せば、「あの公園、よく行くんですよ、俺」と返ってきた。

私が大学入学の時から一人暮らしをしている、学生向けマンションは大学から自転車で十五分の距離にある。

そのすぐそばには、大きな河川が流れていて、河川沿いには大きな国営公園があり、休日にもなれば多くの家族連れでにぎわっている。

芝生広場のほかに、野球場やテニスコートもあるようで、私の部屋のベランダからも見下ろせるのだけど、私は二年間で一度も行ったことはない。

理由はただひとつ。
虫がいるからだ。

「あの公園の景観保全地区や自然地区はすばらしいです」

「景観……なに?」

「景観保全地区」

漢字をひと文字づつ説明してから、晴が教えてくれた情報によると、その場所は私から見ればただの草むらだと思っていたところだったのだけど、晴からすればとてもいい場所らしい。

「昆虫の宝庫です」

ただの草むら以下。

「俺もあのマンションに引っ越したいんですけど、なかなか空きがないんですよね」

晴がもしうちのマンションに引っ越してくるなんてことがあれば、それはかなり楽しいかもしれない。

おかずを作りすぎちゃった、なんていいながら持っていったりして。

まぁ、たいした料理は作れないのだけど。

「桜子さんずるいなぁ。いつでも昆虫採集に行けるじゃないですか」

いや、行きませんけどね。

即答でそう返そうとしたら、晴が先に「あ、そうだ」と口を開いた。

「今度、一緒に行きませんか? 公園!」

もしかして……。
もしかしてこれってデートっていうやつですか?


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