bug!
「うわぁ!」

晴は展示を見るたびにそう言って目を輝かせる。

夏休みだと子どもであふれかえっていそうな博物館だけど、特別展示もしていない今の時期は来館者も少ないようで、私と晴の他にはほとんど人がいなかった。

広々とした博物館の中はひんやりとしていて、足音さえも響いた。

晴は、蝶や甲虫の標本が入ったショーケースにおでこをくっつけるようにしながら、ひとつひとつゆっくり見ては、私に説明をしてくれる。

「カラスアゲハの翅(はね)は青や緑に輝いて見えるんです。ほら、見る角度によって違う色に見えますよ!」

「蛍にも方言があって、東と西では光り方が違うんですよ。だいたい長野県を境に、西は約二秒、東は約四秒で光るんですけど、その間ではなんと約三秒の蛍がいることが最近分かったんです」

私はそんな晴の横顔だけを見ていた。
虫を見たくなかったというのも理由だけど、それ以上に、目を輝かせて虫を見ている晴にみとれていたのだ。

心から好きなものがある人が、心から好きなものを見ているとき、心から好きなものを語るとき、こんなにもキラキラとするということを、私は初めて知った。
そして、それがとても美しいということも。
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