bug!
その日の夕方、キャンパス内を自転車置き場に向かって歩いていたときのことだ。
このキャンパスは、とにかく緑が多くて、そのせいで虫もたくさんいて迷惑なのだけど、春の風はとても気持ちが良く、私は周りに誰もいないことをいいことに、軽く鼻唄なんかを歌いながら桜並木の下を歩いていた。
もう桜の花びらはほとんど散ってしまっていて、葉桜になっていたけれど、見上げると緑のトンネルのようだ。
「……」
春の五時過ぎと言えばまだまだ明るい。
だから、私はすぐに気がついた。
私の目の前、三メートルほどの道端で寝転がっている男に。
その人はちょうどほふく前進のような姿で、草むらの中に頭を突っ込んでいた。
そのせいで、肩くらいから下しか見えていないけれど、頭をあげているから具合が悪くて倒れているわけではなさそうだ。
昼間、道の真ん中でちょうちょに会い、肩に変な虫が止まっただけでも最悪な一日だったのに、そのうえ、更に変な男を見つけてしまうなんて。
今日は厄日だ。
幸い、その変な男は私に気がついていない。
門のところにいつもいる警備員さんでも呼んだほうがいいのかな。
それより、講義棟に戻って事務の人に言ったほうがいいかもしれない。
逡巡したのは一瞬だった。
講義棟に戻ろう。警備員さんは不在のときもあるけれど、事務の人なら必ずいるはずだから。
そう思って、来た道に向け体を傾けようとしたときだった。
ガサッと草を掻き分ける音とともに「んあぁ」と間の抜けた声がして、その誰かがゆっくりと体を起こした。
「ひっ!」
私が小さな悲鳴を上げたのは、男の人が起き上がったからじゃなく。
その男の人が、昼間に会ったあの変な男だっかたらでもなく。
さらに、その男の人が、まさに麻衣の言っていた王子様の特徴に当てはまることに気がついたからでもない。
その男の人が、嬉しそうな顔で手にしていたのが。
大量の黒い虫だったから。
このキャンパスは、とにかく緑が多くて、そのせいで虫もたくさんいて迷惑なのだけど、春の風はとても気持ちが良く、私は周りに誰もいないことをいいことに、軽く鼻唄なんかを歌いながら桜並木の下を歩いていた。
もう桜の花びらはほとんど散ってしまっていて、葉桜になっていたけれど、見上げると緑のトンネルのようだ。
「……」
春の五時過ぎと言えばまだまだ明るい。
だから、私はすぐに気がついた。
私の目の前、三メートルほどの道端で寝転がっている男に。
その人はちょうどほふく前進のような姿で、草むらの中に頭を突っ込んでいた。
そのせいで、肩くらいから下しか見えていないけれど、頭をあげているから具合が悪くて倒れているわけではなさそうだ。
昼間、道の真ん中でちょうちょに会い、肩に変な虫が止まっただけでも最悪な一日だったのに、そのうえ、更に変な男を見つけてしまうなんて。
今日は厄日だ。
幸い、その変な男は私に気がついていない。
門のところにいつもいる警備員さんでも呼んだほうがいいのかな。
それより、講義棟に戻って事務の人に言ったほうがいいかもしれない。
逡巡したのは一瞬だった。
講義棟に戻ろう。警備員さんは不在のときもあるけれど、事務の人なら必ずいるはずだから。
そう思って、来た道に向け体を傾けようとしたときだった。
ガサッと草を掻き分ける音とともに「んあぁ」と間の抜けた声がして、その誰かがゆっくりと体を起こした。
「ひっ!」
私が小さな悲鳴を上げたのは、男の人が起き上がったからじゃなく。
その男の人が、昼間に会ったあの変な男だっかたらでもなく。
さらに、その男の人が、まさに麻衣の言っていた王子様の特徴に当てはまることに気がついたからでもない。
その男の人が、嬉しそうな顔で手にしていたのが。
大量の黒い虫だったから。