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彼の手のひらの上には十数匹の黒い小さな虫がうごめいている。

よく見るつもりなどなかったのに、あまりの恐怖で凝視してしまい、はからずもそれが団子虫であることに気がついた。

だからといって恐怖が薄れたりなどということは一切ない。
足のほうから、ぞわっと鳥肌がたっていくのを感じた。

彼はといえば、その手の中の団子虫をつぶしてしまわないように配慮してなのか、ゆっくりと起き上がった。

その間にも、団子虫たちは彼の手のひらを散歩でもするようにひっきりなしに動き回っていて、手のひらから零れ落ちそうになるたびに、男の人は彼らを指先ですくい上げるという作業に集中しているようだ。

「あ」

目の前に私が立っていることにようやく気がついたのか、男の人は顔を上げてなにもこんな時にしなくてもいいじゃないか、と突っ込みたくなるほどさわやかな笑顔を見せた。

首を少しかしげると、はねた茶色の髪がさらさらと揺れて、緑のトンネルからもれた光に反射した。

きっとたいしたケアもしてないのに、にきびひとつない、透き通るようにきれいな頬とか。

カラコンもしてないのに、大きな黒目とか、この距離でもわかるくらい長いまつげとか。

『王子様』みたい。

麻衣はそう言った。
確かに彼は王子様みたいだ。
顔だけは。

「昼間に会った、コアオハナムグリの人だ」

王子様はそんなことを言う。
おっとりとした、耳障りのいい声でゆっくりと。

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