夢を忘れた眠り姫
zzz…
「ほんとにねぇ、突然の事で申し訳ないんだけれども」
休日の、夕闇迫るその時間、何の前触れもなく突然、その使者は私の目の前に現れた。
眉尻を下げ、右手を頬に当てて、衝撃の事実を口にする。
「でもほら、まだ3ヶ月以上も先の話だから。それに、元からいた方にはもちろん優先的に入ってもらうつもりだし」
「でも…。プラス5万円にも、なってしまうんですよね…?」
私は恐れおののきながら、震える声で囁いた。
「そりゃあ、1LDKでバストイレは独立型で、しかもオートロックになるんだから。さらに新築物件よ!この辺の相場でいったら、それくらいはいただかないとねぇ~」
頬に当てていた手を前に出して上下に振りつつ、コロコロと陽気な笑い声を発した後、彼女は話を終結させた。
「ま、とにかくそういう訳だから。後日改めて、仲介の不動産屋さんから連絡が来て、詳細を記載した書面を渡されると思うから、よーく考えて結論を出してね」
予期せぬ訪問者……このアパートの大家さんは、そう言い残し、颯爽と私の部屋の玄関口から去って行った。
ドアを閉め、鍵を施錠しチェーンをしっかりかけたあと、私は思わず上リ口に尻餅を着くようにして座り込む。
「ひっじょーにマズいんですけど…」
両手で頭を抱えつつ唸った。