夢を忘れた眠り姫
会社に到着し、エレベーターホールで顔を合わせた同部署の先輩方とそんな挨拶を交わしつつ箱に乗り込み、ロッカールーム、庶務課フロアへと共に移動して行く。

たどり着いた先でもすでに出勤していた方々と、何となく入口付近に固まって新年の挨拶を交わしていると、時間差でマンションを出た貴志さんも姿を現し、その輪に加わった。

自然の成り行きで私の隣に彼が立った瞬間『あ』と思ったのだけれど、二人が並んでいるのを見てもちゃかしたりいじったりして来る人は皆無だった。

皆さんの脳内には昨日までの、連休中に起きたエピソードの方が鮮明に強烈に記憶されているようで、私達への興味はだいぶ薄らいでしまったようだ。

こちらとしてはむしろ大歓迎だけど。

七十五日どころか七.五日くらいで噂が沈静化してくれた訳で、あのタイミングで私達の(偽りの)交際が発覚したのはある意味ラッキーであった。

やっかい事の一つはとりあえず終息に向かっているようなので、穏やかな気分で仕事に突入する事ができ、順調に午前の業務を終えた。

いつものごとく先輩方と社食で昼食を摂って先に席を立ち、歯磨きを済ませてからロッカールームでケータイをチェックしてみると、彼からメールが届いていた。

『遅くなったけど明けましておめでとう』という文面に、そういえばお互いに年賀メールは送りあっていなかった事に気付く。
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