夢を忘れた眠り姫
「庶務課です。新しいクリアファイルをお持ちしたのですが…」

「あ、そこのカウンターの上に置いといて下さーい」


目的のフロアにたどり着き、入口から一番近いデスク前に腰かけていた女性に声をかけると、彼女は上半身だけこちらに向けてそう返答した。


「古いのはその足元にあるやつですから。よろしくお願いしますねー」


そして受話器を手に取り、どこかに電話をかけてしまった。

ま、ちょうど忙しい時間帯に来てしまったみたいだし、仕方ないよね。


「分かりました」


聞こえているかどうかは定かではないけれど、一応そう返答してから言われた通り、入口入ってすぐ左手側にあるカウンターの上に箱を置き、その下に置いてあった箱を回収した。


「失礼いたしました」


そう声を発してから退室し、廊下を進んで階段室に差し掛かった所で。


「永井さん」


ふいに背後から名前を呼ばれた。


「大丈夫?」

「え?あ…」


振り向くと、販売企画課のホープ、噂の落合さんの姿があった。


「それ、手で運ぶの大変じゃない?」

「いえ、大丈夫です」


どうやら私と女性のやり取りを見ていて、後を追いかけて来てくれたようだ。


「しかも階段で上がるの?エレベーター使えばいいのに」

「いえいえ、どうせ二階分上がるだけですし」


大した労力ではない。

それに階段室の方がエレベーターホールよりも手前にあるのだ。
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