夢を忘れた眠り姫
わざわざそこを通り過ぎてホールまで移動してエレベーターが来るのを待って、とやっていたら時間のロスだし、そもそも両手が塞がっているからボタン操作がまごつくことうけあいなので階段を使った方が手っ取り早いと思った。


「それじゃあ、俺が上まで運んであげるよ。今んとこ手が空いてるし」

「え?そんな…」


『お気遣いなく』と続けようとしたけれど、強引に箱を奪われ、さっさと歩き出されてしまった。


……こうなってしまったからにはとりあえず従うしかないだろう。

数秒置いてから、私も落合さんに続いて階段を上り始めた。

しかし彼は、一つ上の踊り場の中間地点で突然足を止め、くるりと振り向く。


「?あの…」

「君、同じ課の貴志君と付き合ってるんだってね」

「え?」

「残念だよ…。実は俺、永井さんのことずっと良いなと思ってたからさ」

「へ!?」


唐突過ぎる告白に思わず素っ頓狂な声を発してしまった。


「え。い、いや、あの、落合さん、今までそんな素振り全く見せませんでしたよね?」

「そりゃだって、気付かれないようにこっそり見守ってたんだもん」


テンパりながらの私の問いかけに落合さんはシレッと答えた。


……いやいや、それはダメでしょーよ。

後から振り返った時に『あ、そういえばこの言葉を裏付けるこんな場面があったな』っていう伏線をちゃんと張っておかないとさ。
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