夢を忘れた眠り姫
彼もその恋愛マジックにかかり、対象者、つまり私の姿がそのキラキラフィルター越しに見えているのだろう。

だから思いがけず二人きりになったこの機会に、唐突にやっつけ気味に行き当たりばったりで告白するに至ったと。

って、謎が解けたのは良いんだけども、この状況を打破するには一体どうすれば……。


「もう、手遅れなのかな」「ええ、そうですね」


落合さんがさらに言葉を繋いだその時。


「バリバリ後手後手にもほどがあります。完全に好機を逃しています。彼女はもう私とお付き合いしているんですから」


左斜め頭上から、とても聞き慣れた声が被せ気味に降って来た。

急いでそちらに視線を向けると予想通り、一つ上の踊り場からこちらを見下ろしている貴志さんの姿が。


「えっ?ど、どうして…」

「もしかしたら回収して来る箱の方は重たいかもしれないから、様子を見に行ってくれって言われたんだ」


思わず発した私の問いかけに律儀に返答しながら貴志さんは階段を駆け降り、つられて振り向いていた落合さんの眼前まで来て足を止めた。


「これは私が運びますので」


そして彼の手から箱を奪い取る。


「今後、こういう事はやめていただきたい」

「……え?」

「永井さんだけに限らず、こんな人気のないような場所で女性を口説くような行為は」


落合さんを真っ直ぐに見据えて物申す貴志さんのその様子にとてもドキリとする。
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