夢を忘れた眠り姫
その横顔と口調がとても厳しく威圧的なものだったから。

彼が会社でこんな振る舞いをするのは初めてのことなのではなかろうか。


「あなたのような上背のある男性に間近に迫られたら、相手が圧倒されたり、場合によっては恐怖を感じるとは思わないんですか?しかも永井さんはまだ新人で、立場的にあなたに強く意見するのはなかなか難しい。たとえあなた自身は無自覚だとしても、端から見たらセクハラ以外の何物でもないですよ」


そこで落合さんは口を開きかけたけれど、それを待たずに貴志さんは畳み掛けた。


「自分の感情を押し付ける事だけに意識を集中し、たとえ一瞬でも好きな相手を困惑させたり怖がらせたりするような人物に、愛を語る資格はない」


「……そうだね」


すこし間を置いてから、落合さんは神妙に頷いた。


「貴志君の言う通りだ。ごめんね?永井さん」


そして言葉の途中で彼から私へと視線を移し、謝罪する。


「あ、いえ…」

「俺、仕事に戻るね…」


落合さんはそう宣言すると、『ふ…』と哀愁漂う笑顔を浮かべ、ふらりと踵を返して歩き出し、階段を降りて行った。

しかしその一連の流れは大層芝居がかっていて、どうにもこうにも自分に酔っている感が否めない。


「大丈夫だったか?」

「…あ、はい」


その後ろ姿を見送っていた私は、問いかけて来た貴志さんに一拍置いてから視線を向ける。
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